2019年2月20日:吉田寮の未来のための私たちの提案

吉田寮の未来のための私たちの提案

2019年2月20日 吉田寮自治会

1)「吉田寮の今後のあり方について」を受けて

2019年2月12日、京都大学は『吉田寮の今後のあり方について』(以下、本文書において「今後のあり方」と言う)という文書を公式サイト上で発表し、記者会見を開いてマスコミ向けにこれを説明しました。この文書のなかでは、現棟の歴史的経緯について大学として配慮すること、および安全性の観点からは新棟の居住について問題がないことの2点が確認されています。これは、吉田寮自治会としてこれまで主張してきたことが認められたということで、前向きに評価できます。

しかし一方で、大学当局は「適切な管理」や「時代の変化と現在の社会的要請の下での責任ある自治」を名目として、寄宿料・水光熱費を個別納入方式に変更することや自治会による入退寮選考を認めないことといった、新棟居住継続希望者に対する新たな条件を一方的に提示してきました。

これまで吉田寮自治会は、「適切な管理」、「責任ある自治」の実現に向けて、試行錯誤しながら尽力してきました。しかし、「今後のあり方」の中で大学当局はその事実について何ら言及しておらず、主張の根拠は単なる大学当局の印象でしかありません。このような、事実に基づかない印象操作で寮自治会を非難しながら一方的に方針を提示するあり方は、健全な学内民主主義を否定する執行部の暴走だと言わざるをえません。以下では、私たちの取り組みを具体的に説明するとともに、大学当局との対話による合意形成に向けて、寮自治会としての提案を発表します。

2)吉田寮のこれまでの管理・運営について

2-a) 対話を根幹とした運営

吉田寮においては、全寮生で構成される吉田寮自治会が責任を持って管理・運営を担ってきました。寮運営にあたって私たちは、「話し合いの原則」を大切にし、過剰な権力の介入を避け、起きた問題に一人一人が向き合って解決することを目指してきました。特に、差別や抑圧を可能な限り減らし、学生の学ぶ権利を確保することに向けて努力してきました。

2-b) 入寮募集

かつて男子学部学生しか住むことのできなかった吉田寮の門戸をあらゆる性を持つ学生、多様な国からやってくる留学生に開いたのも京都大学の執行部ではなく、私たち吉田寮自治会でした。

入寮選考については、入寮選考委員会が希望者1人1人を面接し、各々の経済状況など寮を必要とする理由を聞き、合格者を決定してきました。寮生の努力や工夫によって、様々な方を受け入れて今日に至っています。

2-c) 開かれた場を作るための試み、その象徴としての吉田寮食堂

さらに私たちは福利厚生施設としての吉田寮だけではなく、地域や世界に開かれた吉田寮としての運営にも取り組んできました。後述する吉田寮食堂を起点に、寮生と地域の方々と手を取り合い、ライブ、演劇、マーケットやシンポジウムほかにも様々な文化的諸活動の場を作り上げてきました。昨年からは、吉田寮現棟の歴史的文化的価値への理解を深めるため市民に向けた見学会を始めたほか昨年9月には、吉田寮現棟の保存活用、再生プランを検討するシンポジウムを開催しました。

「今後のあり方」では2015年に補修も完了した吉田寮食堂も、使用禁止の対象とされています。食堂は、1986年の炊フの配置転換により、給食機能を失いました。その代わり、使用者会議で寮生・寮外生が話し合いながら、イベントスペースとして運営し、これまで様々な表現活動の拠点となってきました。現在では京都における、重要な文化活動・芸術活動の一拠点となっています。現に、大学当局の主張する「退去期限」以後も活発にイベントが開かれ、多くの方に足を運んでもらっています。以上のことから、吉田寮食堂は、京大の「基本理念」に掲げられた、「地域の社会との連携を強める」こと、「国際交流を深める」ことの実践の現場であると考えています。

2-d)その他の取り組み

他にも吉田寮では、より良いあり方を志向して、様々な問題提起や試みが寮生や使用者により行われてきました。例えば、大学を筆頭とする公共施設には通常女/男別のトイレしかないために、トイレを使う時に、自分の望まない性のあり方を強要されたり、そのためにトイレを我慢しなければいけないという問題があります。このことから、吉田寮新棟を建設する際には、寮生間の話し合いにより、寮内トイレのオールジェンダー(性不問・完全個室)化を図ることとしました。また、日本語を得意とする人とそうでない人との情報格差を埋めることを目的とした「言語支援局」を設立し、ビラ・資料の多言語化の試みを行ってきました。

2-e)居住管理に関して

「今後のあり方」では、居住実態の管理についても言及がありました。この点については、これまでは入寮選考委員会が部屋割りを作成し、居住の実態まで含めて適切に把握をしてきました。

居住実態の把握にあたっては、寮生個人のプライバシーには極力配慮しています。また、相部屋制度や共有スペースの確保などで寮生同士に日常的な顔の見える関係性があることによって、災害時に協力して対応したり、孤立を防いだりしてきた面があります。

京大当局は、職員の立ち入りが拒まれているかのような書き方をしています。しかし、これは明らかな事実誤認もしくは印象操作です。まず、前提として寮は生活空間ですので、職員といえど不必要に部屋に立ち入ることは好ましいことではありません。また、寮内で起こる生活上の問題などは職員の立ち入りで解決するわけでもありません。それでも、職員が立ち入りの必要性を説明すれば、寮生が立ち入りを妨害することはありませんでした。現に、消防設備点検や設備補修の際には、業者が寮内に立ち入ることがありました。

2-f)まとめ

このように、吉田寮の運営は、寮生を中心とした当事者が主体的に試行錯誤をしながら担ってきました。もちろん、すべての活動がうまくいったわけでも、すべてが正しかったわけでもないと思います。ただ、これらの取り組みが長い歴史を積み重ね、その延長に現在の私たちの自治があることは、この社会において少なからず意義があることだと考えています。

3)私たちが残したいもの

私たちは、経済的困難をはじめとする様々な事情を抱えた学生の福利厚生施設としての吉田寮、また豊かな自治が行われ多様な人が集い交わるこの場を、吉田寮現棟の歴史的な価値とともに後世に残していきたいと思っています。そしてそういった吉田寮の存在意義を保ち続けるために、寮生自らが最適な寮の運営を主体的に決定するための機関としての寮自治会が、必要不可欠であると考えます。

吉田寮はいかなる場所であるべきか。吉田寮は、京大で学ぶ人の権利を保障するための福利厚生施設であることは言うまでもなく、その他京大の学生、そうでない学生、教職員、地域の方など、様々な人が集い、交流し、知識を共有し新たな文化を創造するパブリックスペースとして一定の役割を果たしてきました。このようなあり方をこそ、残していくべきだと私たちは考えています。これは、京大の「基本理念」に掲げられているような「開かれた大学」という理想に沿うものでしょう。こうした理想の実現のために、吉田寮の今後のあり方を決めていく過程において、実際に関わる当事者の意見を尊重してほしいと願っています。現執行部の進める方策は、寮生を「無責任」だと非難こそしても、この場所にどのような価値を見出し、今後どのように運営していきたいのか、ビジョンに乏しいと言わざるをえません。

4)大学執行部との信頼関係回復に向けて

円滑な寮運営には、大学当局との信頼関係が不可欠であることは確かです。従来は、大学の責任者と共に議論し、落としどころを見つけて手を取り合いそれを実現してきました。吉田寮食堂の補修や新棟建設は、その信頼関係の大きな成果です。これは、寮自治会と京大のその時々の役職者が、ともに「対話」を尊重してきたからこそです。

しかしここ数年、とりわけ現在の寮関係の責任者である川添理事就任以降はそれがうまく機能しなくなっています。従来行われてきた建設的な話し合いの場を持つことは拒絶され、歴代の大学責任者との合意事項をまとめた書面である確約書は一方的に無効とされています。具体的な議論もなく一方的に確約書を無効だと主張する現理事の姿勢は、これまでの役職者がその時々判断を下して署名してきたという事実を著しく軽視したものであると考えます。

一方で、寮自治会は現在の信頼関係の破壊の責任がすべて大学の執行部および川添理事にあるとは考えていません。話し合いで合意に至らなかった場合、一方のみに責任を押し付けることは適切ではなく、寮自治会としても自らの責任を重く受け止めています。

しかし、入寮募集を一方的に「無責任」と非難されることには疑問を感じます。現棟の老朽化については、居住している私たちこそ、とても憂慮しており、その対策を30年以上も前から求めてきました。ところが、これらに真摯な対応がなされることがなく、今後の老朽化対策案についても何ら明示しないまま、「募集停止要請」は出されました。要請を受けて、寮自治会からは、内部で議論を積み重ね、「話し合いで合意がなされれば部分的に退去する用意もある」ことを大学当局に対して説明してきました。さらに自治会が譲歩を重ね大学の提示する条件(参加者10名まで、傍聴不可、時間を2時間のみとし途中で打ち切りも可能にするなどの多くの制限)を受け入れ、行われた二度の話し合いの中では、こちらからは、さらに具体化した補修案を提示しました。しかし、川添理事は「意見は聞くが合意形成はするつもりはない」と言い放ち、こちらの案への応答を拒否し、こちらからの説明をさえぎる形で恫喝するなど、話し合いの前提を崩しました。理事がいまだに恫喝というハラスメント行為について、謝罪を拒み続けていることからも、当事者に対して真摯に向き合い合意を形成する意思がないように思われます。

入寮募集については、大学当局が募集停止要請を喧伝する中でも数十人の入寮希望者が毎年ありました。しかし募集停止要請が一方的なものであったとしても、大学当局の要請に逆らったことに問題が全く無かったとは思いません。しかし、それだけ寮を必要とする学生が毎年おり、今もいるという事実は、真摯に受け止められるべきではないでしょうか。吉田寮への入寮を求める学生の中には、学費、生活費の全額を自ら支弁しなければならない苦学生や、学位課程の学生とさほど変わらぬ学費を納入しなければならないにも関わらず、大学からの授業料減免をはじめとする経済支援を受けられない種別の、いわゆる非正規学生など、吉田寮に入寮できなければ京都大学における学習・研究を諦めざるを得ない者も多数います。吉田寮自治会として、京都大学の福利厚生施設を必要としている人々に応えることも、大事な責務であったと私たちは考えています。

5)吉田寮自治会からの提案

自治のあり方については、一方的な通告ではなく対話によって合意が図られるべきものだと私たち寮自治会は考えます。大学執行部が独断で決定し、当事者との合意なく決定した方針が押し付けられるだけの今のあり方は適切とは言えません。今回京都大学が新棟居住に際して提示した現棟および食堂からの退去、新棟での居住継続に関する、入寮募集停止を含めた6条件はあまりに唐突であり、福利厚生施設及び自治寮としての吉田寮の質を大きく損なうものだと考えています。

しかし同時に吉田寮自治会は、大学執行部が提示した条件の全てを否定することはしません。破壊された信頼関係回復の事始め、大学の執行部と吉田寮自治会が手を取り合いより良い京都大学を作っていく第一歩として、

1.安全性の担保されている吉田寮食堂の継続使用

2.清掃や点検といった吉田寮自治会による従来通りの現棟の維持・管理

上記の二点を合意できるのであれば、安全確保に向け五月末をめどとした現棟の居住取りやめを行うことを表明します。

なお、2019年度春季入寮募集に関しては現棟への募集をとりやめ、安全性が十分に保障されている新棟に限定して通常の日程で行います。

そして吉田寮自治会との現棟老朽化対策をはじめとする種々の議題の建設的な対話の再開を求めます。私たちは、京都大学が法的手段によってではなく、吉田寮自治会との対話によってこの問題を解決できると信じています。大学執行部が、京都大学の「基本理念」にも掲げている「自由の学風」「自由と調和」といった観点を尊重して判断をされることを切に望みます。