声明文『2016年春期入寮選考にあたって』

2016年2月21日

2016年2月21日

吉田寮自治会

2016年春期入寮選考にあたって

2015年7月28日、京都大学当局(理事・副学長会議)より吉田寮自治会に対し、文書『吉田寮の入寮者募集について』が一方的に通知されました。これは、吉田寮の現居住者は現棟から退去すべきとして2015年秋期以降の入寮募集停止を要請するものでした。また翌29日には、吉田寮自治会との何らの話し合いも合意形成もないままに、同通知内容が京都大学公式HP上に掲載されました。吉田寮自治会は、団体交渉や公開質問状などをとおして、大学当局に対しこの通告を撤回するよう、再三にわたって要求してきました。しかし、今日に至るまで通告は撤回されていません。

2016年春期入寮選考を行うにあたり、吉田寮自治会は大学当局による一方的な募集停止措置要請の文書通告、及びHP上での掲載についてあらためて強く抗議し、以下のとおり表明します。

1.吉田寮自治会は、今回の大学当局の通告を受け入れることは出来ない。

2.大学当局は、文書通告の大学公式HP上での掲載を撤回するべきである。

3.大学当局は、文書通告を取り下げ、吉田寮自治会と吉田寮現棟の老朽化対策について議論し合意形成をはかるための、団体交渉に応じるべきである。

以下、理由を説明します。

■ 募集停止措置は自治会の入退寮選考権に対する侵害である。

そもそも、吉田寮の入退寮選考権は歴史的に吉田寮自治会が担っています。寮生という当事者自らが入寮選考を行うのは、大学の審査にみられる実態に沿わない画一的な基準に基づく選別や排除を避けて、より入寮希望者の個別の事情に配慮した柔軟な選考が出来るからです。また大学当局が入退寮選考権を持つと、大学当局から不当な圧力を受けた者は寮に住めなくなる可能性が高まります。

自治会が入寮選考権を持つことは、大学当局との間でも合意されていることです。今回のような大学当局による一方的な入寮募集停止の「通告」とHP掲載による既定路線化は、自治会のもつ入退寮選考権を剥奪しようとする行為であるといえます。

■ 文書による一方的通告とHP掲載による既定路線化は、当事者との合意形成プロセスを軽視している。

これまで吉田寮自治会は京都大学当局と、団体交渉というやり方で問題解決をはかってきました。「吉田寮の運営について一方的に決定せず、自治会と話し合い、合意のうえで決定する」ことは、吉田寮自治会と京都大学当局との「確約(※1)」の第1項目により保証されています。今回の京都大学当局の一方的な通告は、当事者である自治会との合意形成を無視するものであり、決して許容することは出来ません。

大学当局は「通告は「提案」に過ぎず決定ではない」と主張しています。しかし大学がこのような「通告」をHPに掲載すれば、募集停止「通告」が既定路線化することは明らかです。実際、数多くのメディアで吉田寮の入寮募集停止や廃寮化が決定したというデマが流布されてしまいました。自治会と議論し合意を目指す意思があるならば、まずは直ちに「通告」の公開を取り下げるべきです。

また、2015年8月17日付の『公開質問状に対する回答(以下、『回答文』)』の中で、大学当局はHP掲載について、「要請を京都大学の学生や教職員に理解してもらうため」と説明しています。しかし、何より実際に寮で生活している当事者との一切の議論や合意形成を欠いたまま、当局の一方的見解や主張を「(寮外の)学生や教職員に理解してもらう」というのは、あまりに当事者の存在を軽視した行為といえます。また、寮自治会と大学当局とのこれまでの議論内容や吉田寮の老朽化対策についてより広く周知する必要があると言うなら、まずは当事者とその方法や内容を確認するべきですし、入寮募集停止要請を伴う必要はないはずです。

■ 募集停止は学生の福利厚生の縮小である。

吉田寮の寮費が低廉なのは吉田寮が京都大学の福利厚生施設であるためです。福利厚生施設としての学生寮は、京都大学で学ぶ学生の経済負担の軽減を主な目的とする施設です。現状、京都大学の学寮に十分なキャパシティはなく、この事実は京都大学当局も認めています。また、京都大学にある全ての留学生寮(「国際交流会館」)は吉田寮に比べ格段に高い寮費になっています。こうした現状があるからこそ、私たちはこれまで入寮募集を続け吉田寮に住み続けてきたのです。そして、経済事情の悪化や授業料の高騰がある中で、今後とも吉田寮が提供する福利厚生を必要とする学生がいなくなることはありません。今回の入寮募集停止通告はこうした事情を顧みない、一方的な福利厚生の縮小でもあります。

■ 安全性を考えるならば大学当局は入寮募集停止措置を通告するのではなく、自治会の要求に応え、速やかに補修に向けた議論を行うべきである。

京都大学当局は入寮募集停止と現棟からの住人退去について、寮生の生命・安全を確保するためであると説明しています。しかし、現棟の老朽化については、長年の吉田寮自治会の補修要求に対して、勝手な都合でこれを怠ってきた京都大学当局にそもそもの原因があると言わざるをえません。私たちは建物を一度に補修するのではなく、耐震強度が低い箇所から、部分的に補修するという提案もしてきました。実際2007年には補修工事(当局の予算の都合により実行されませんでしたが)に向けて寮の3分の1を空けるといった柔軟な対応もしています。これは入寮募集を続けながら実行されたことです。加えて吉田寮自治会は既に2012年9月の段階で「吉田寮の建築的意義を出来うる限り損なわない補修の実現に向けて継続協議する」旨の確約を大学当局と締結し、2013 年1 月には「京都市歴史的建造物の保存及び活用に関する条例」を適用して現在の寮の様態を維持しながら耐震強度を上げる補修方法を提案しています。しかし、大学当局は2015年4月以降現棟補修に関する団体交渉に一度も応じてきませんでした(※2)。真に学生の安全を守るのであれば、入寮募集停止措置を講じ現棟からの退去を一方的に通告して議論を長期化させるような混乱を招くのではなく、現棟補修を速やかに実現するための議論を、吉田寮自治会と行うべきです。

一方で、大学当局は『回答文』の中で、「まず現棟を居住者のいない状態にして、部分解体を含む詳細な調査を行い」と述べています。まず、この段階で既に、募集停止の理由が寮生の安全確保から現棟の調査へとすり替わっています。これでは、募集停止および退去が結論として決まっていて、理由を後づけしたかのようにも見えます。もしそうなら、この通告は現棟の老朽化問題を口実にした寮自治に対する攻撃であり、断じて許すことはできません。また、調査を行うとは言っても、その内容や必要性について何も言及されていません。調査を行うにしても、やはり吉田寮自治会とその内容や必要性を議論し、合意するべきです。それもないのに、単に「調査をする」とだけ言って、現棟からの退去を要求するのはあまりに粗雑であると言わざるをえません。いずれにせよ、現棟補修を進めるために吉田寮自治会と話し合うべきです。

■ 入寮募集停止が廃寮化・管理寮(※3)化につながるのは歴史的事実である。

また京都大学当局は、今回の入寮募集停止は「廃寮化を前提としたものではない」と主張しています。しかし、歴史認識に基づけば入寮募集停止が廃寮化・管理寮化に繋がる行為であるのは明らかです。かつて1980年代に吉田寮が廃寮寸前まで追い込まれた際も、大学当局はまず入寮募集停止措置をとることから廃寮化攻撃を始めました。1970年代以降、全国の数多くの学生寮(例えば東大の旧駒場寮や山形大学学寮など)が廃寮化・管理寮化の憂き目にあってきました。そのほとんどが入寮募集の停止から始まったという事実が有ります。こうした数々の歴史的事実を鑑みれば、今後京都大学当局が自治会の解散や吉田寮現棟の取り壊し・縮小などの形で廃寮化・管理寮化を進めることが強く危惧されます。大学当局が一方的な通告を撤回し、速やかに補修に向けた議論を再開しない限り、その懸念は払拭されません。

■ 吉田寮に関する議論は、あらゆる当事者が参加できる、公開の場で行われるべきである。

吉田寮自治会が今回の通告及び吉田寮の老朽化対策に関して団体交渉をもつことを要求したのに対して、『回答文』では以下のように回答されました。

「大学当局としては、今後、吉田寮自治会と対話を進めていく必要があると考えており、話し合いをより実りあるものとするために、学生側・大学側双方5人程度の代表者による具体的かつ建設的な話し合いができる円卓会議を設置し、十分な議論をしていくことを提案します。」

吉田寮の運営や老朽化対策に関して寮自治会と大学当局は、公開され、全ての当事者が参加できる話し合いの場(団体交渉)で問題解決をはかってきました。これは、実際に吉田寮で活動している当事者こそが、寮運営に関する第一義的な自己決定権をもつという自治原則の上で、強い権力をもつ京大当局がこれを侵して当事者との合意なく物事を決定しないようにするためです。また吉田寮の当事者は多様な立場性をもつ多数の人々によって構成されており、開かれた話し合いの場でなければそれら全ての関心有る人が議論に参加できません。人数制限によって議論に参加したい当事者を排除することは、健全な話し合いの方法とは言えません。

また例えば吉田寮西寮(新棟)の増築や寮食堂の補修は、団体交渉での議論と合意形成により実現したものです。これは、団体交渉において「具体的かつ建設的な話し合い」が成されたことの証拠です。実際2015年3月9日まで、寮自治会と学生担当副学長を責任主体とする大学当局とは、団体交渉の場で現棟の老朽化対策について議論を進めてきていました。寮自治会は、早期に団体交渉を行うことこそが、老朽化対策を着実に進める手段であると考えています。

※1 確約とは、団体交渉で締結する文面化された約束です。吉田寮自治会が2015年2月12日に締結した確約は、吉田寮公式ホームページ( yoshidaryo.org/2015/02/12/150212確約書/ )に掲載しています。

※2 2015年11月には川添信介が新学生担当理事に就任しました。これに伴い、2016年1月、吉田寮自治会と大学当局(第三小委員会)との間で確約の引継に向けた予備折衝が行われました。吉田寮自治会としては、速やかに確約の引き継ぎを完了したうえで、老朽化対策の議論を再開させたいと考えています。

※3 管理寮とは、大学当局が運営・管理する寮です。多くの管理寮では、共有スペースの廃止や高額な寮費設定、寮への厳しい立ち入り制限等が行われています。