2022年9月6日:「現棟の老朽化対策に向けた話し合いの再開と現棟の継続的補修を求める要求書」への2022年9月1日付けの大学当局の回答に対する声明

「現棟の老朽化対策に向けた話し合いの再開と現棟の継続的補修を求める要求書」への2022年9月1日付けの大学当局の回答に対する声明

2022年9月6日
吉田寮自治会

 2022年8月5日、吉田寮自治会は京都大学役員会に宛てて「現棟の老朽化対策に向けた話し合いの再開と現棟の継続的補修を求める要求書」(以下「220805要求書」)を提出し、吉田寮現棟の抜本的老朽化対策に向けた話し合いの再開と、現棟を維持管理するための小中規模の補修の継続を要求しました。また大学当局が補修を拒否し続ける場合、寮自治会として現棟を維持管理するための小中規模の補修を独自に行わざるを得ないこと、具体的には居住棟の屋根の修繕を予定していることを伝えました。

 要求書の回答期限である8月12日、京大教育推進学生支援部厚生課窓口より、時間的制約により回答できないとの返答を受けました。これを受け寮自治会は回答期限を8月22日まで延長しました。8月24日に厚生課窓口を訪ねたところ、「8月末に過半数の役員が集まる場において220805要求書を咨る」という内容の回答を受けたため、寮自治会は役員会の回答を待つことにしました。

 その結果、2022年9月1日、教育推進学生支援部厚生課よりメールで「要求書に対する回答」だとして、「回答」なる文章(以下「220901回答」)を添付ファイルの形で渡されました。本文章には、後述のとおり回答者名が記されていませんが、上述の厚生課職員の発言から、役員らの協議を経て提出された京都大学役員会としての回答であると解します。

=======220901回答全文=======

吉田寮 御中

京都大学が所有・管理する吉田寮には、現在、居住を認めておりません。

現棟における2018年台風被害により応急処置として設置したブルーシートについては、その役割を果たせていない現状が確認できたならば、再度ブルーシートを設置することを考慮しますが、その他の現棟の補修を行うことはありません。いずれにしても現棟については耐震性能を欠く危険な状態ですので直ちに退去して下さい。また、新棟についても躯体にかかる補修以外を行うことはありませんので、新棟に居住する者にも、寮からの速やかな退去を求めます。

また、大学の所有・管理する施設を許可なく補修する行為は認めません。独自の補修は危険も伴いますので、無責任な行為は厳に慎むよう求めます。

220901回答に対する表明と再要求

吉田寮自治会は220901回答を受けて、以下の通り表明と、京大役員会への再要求を行います。各項目について詳細は後述します。

1、220901回答には執筆者名が記されておらず、無責任です。本回答について責任をもつ主体を明らかにすることを要求します。また220805要求書をどのような場で検討し、どのような議論を行ったのか、討議内容(議事録など)の開示を求めます。

2、220805要求書で要求した2項目の内、第一項「現棟・寮食堂明け渡し請求訴訟を取り下げ、現棟老朽化対策に向けた吉田寮自治会との協議を再開すること」について回答がありません。改めて老朽化対策についての話し合いの再開について、役員会としての見解を求めます。

3、現棟は京都大学の福利厚生施設であり、京大当局が維持管理のための補修すら拒否するのは不当であり抗議します。

4、大学当局が補修を拒否し続ける中、これ以上寮自治会として現棟の老朽化を黙って見過ごすことはできません。現棟の福利厚生機能を維持し、将来的な補修存続の可能性を絶たないため、吉田寮自治会として現棟の自力補修に着手します。
 この点について220901回答は、独自の補修を認めないと述べていますが、自らは何らの理由なく補修を拒否しておきながら、寮自治会が行う補修すらやめさせようというのはあまりに理不尽であり、受け入れることはできません。

5、2018年に台風被害の応急処置として設置され現在劣化しているブルーシートについて、220901回答は「再設置を考慮する」と述べました。しかしこれまで寮自治会の再三の要求にもかかわらず放置されてきた経緯を鑑みると、大学当局に委ねた場合に果たして本当にブルーシートが適切に再設置されるのか疑問を持たざるを得ません。
 そのため、今回独力での再設置を予定していた北寮居住棟のブルーシートについては、吉田寮自治会として再設置を行うこととします。一方北寮居住棟以外の箇所のブルーシートについては大学当局が早急に確認・再設置を行うことを求めます。

6、220901回答は、現棟は耐震性を欠いているため寮生は立退くようにと述べています。しかし吉田寮自治会は、現棟の老朽化は法的に立ち退きを強要できるほどではないと考えています。
 その上で、安全確保のためには現棟の老朽化対策を行い安全性・耐震性を高めることが根本的な解決策です。ところが2015年以降、大学当局はそれまで積み上げてきた現棟老朽化対策の議論を白紙化し、自らはなんらの代案を示すこともせず、寮自治会の補修要求を退けています。そのような状況で、安全確保のために立ち退けというのは矛盾しています。大学当局が老朽化対策を棚上げにしたまま寮生の立ち退きに執着しているのは、現棟・吉田寮の今後のあり方について決定するプロセスから吉田寮自治会など当事者を締め出して、執行部の独断で現棟を取り壊したり、福利厚生施設・自治空間としての質を大きく損なう形で吉田寮を解体再編することが意図されているのではないか、という不安がぬぐえません。大学当局には、寮生の一方的な立ち退き強要を取り下げ、話し合いのもとに問題解決をはかることを求めます。

各項目についての詳細

1、文責のない無責任な回答である点について

 220901回答には執筆者名が記されておらず、本回答について責任をもつ主体が曖昧にされています。大学当局はこれまでにも、過去に学生担当理事との間で結ばれた確約書について「理事個人が約束したものに過ぎないため無効である」などといった事実に反し無責任な見解を示してきました。ましてや今回のように責任主体が明示されない回答では、より酷い責任逃れが行われる可能性が高いです。

 したがって、本回答についての責任主体をきちんと明示することを求めます。なお冒頭に述べたとおり、本回答の経緯として役員会の協議を経ていることはすでに確認済みですが、改めて220805要求書をどのような場で検討しどのような議論を経て本回答に至ったのか討議内容(議事録など)の情報公開を求めます。

2、話し合い再開の要求への回答がないことについて

 今回220805要求書で吉田寮自治会から要求したのは以下の2項です。

1、現棟・寮食堂明け渡し請求訴訟を取り下げ、現棟老朽化対策に向けた吉田寮自治会との協議を再開すること。

2、抜本的な老朽化対策を行うまでの間、吉田寮自治会と協力して、継続的に適切な現棟の修繕を実施すること。

 このうち「2」に対しては今回、ブルーシートの再設置を除いて一切対応しないとの回答が得られました。この問題については後述します。

 一方「1」について、220901回答では一切言及していません。そもそも役員会が問題にしている「耐震性の問題」を生んでいる原因は、役員会が2015年以来、現棟の抜本的老朽化対策についての話し合いを白紙化し、以来寮自治会が提出している現棟改修案を無視し続けていることにあります。現棟の老朽化対策に向けた話し合いの一刻も早い再開について、役員会として回答することを改めて要求します。

3、現棟の維持管理のための小中規模補修の拒否について 

 220901回答において、京大当局はブルーシートの再設置を除いて一切の現棟の補修に対応しないとしました。しかしその理由は一切説明されていません。

 吉田寮現棟は木造建築であり、屋根の修繕など小中規模の継続的補修を行うことで非常に長期間にわたり使い続けることができます。現棟の福利厚生施設としての機能を維持し、将来的な補修存続の可能性を絶たないためには、小中規模の継続的な補修が必要不可欠なのです。まして京大当局は現棟の老朽化対策や今後の取り扱いについて何ら具体的なプランを示していないのですから、もし仮に現棟に寮生が居住していなかったとしても、現棟の維持管理を行う責任があるはずです。

 以上より、京大当局が現棟の小中規模の補修を拒否するのは明らかに不当であり、再考を求めます。少なくとも補修を拒否する理由を説明するべきです。

4、当局が現棟の自力補修すらやめるよう求めていることについて

 上述の通り、現棟の維持管理のための小中規模の補修は、本来大学当局が責任をもって行うべきです。しかしその上で大学当局が補修を拒否し続ける以上は、寮自治会として、福利厚生機能を維持し、将来的な補修存続の可能性を絶たないために、必要な修繕や応急処置を行わざるを得ないと考えています。

 ところが220901回答は「大学の所有・管理する施設を許可なく補修する行為は認めません。」とし、寮自治会として現棟の自力補修を行うことを「無責任な行為」であり「厳に慎むよう」にと述べました。

 当局自らは、現場確認すらせずに補修することを拒否し、その上当事者が必要に迫られて独自に補修を行うことすらやめさせようというのは、あまりに理不尽です。まるで京大当局は、現棟の老朽化が進んで、寮生を強制的に立ち退かせやすくなること、現棟の補修存続が不可能になることを待ち望んでいるかのようです。大学当局は独自の補修が「無責任」だと言って非難しますが、必要な補修を行わずただ老朽化を進行させることの方がよほど無責任ではないでしょうか。

 また京大当局は「独自の補修は危険も伴いますので、」としていますが、今回吉田寮自治会が予定している屋根の補修は、寮生が屋根に登って補修するのではなく、瓦店に依頼して、足場の設置など各種安全対策を施した上でプロの職人が行う補修工事です。「独自の補修は危険」だと断定する根拠はありません。もしも京大当局が監修しなければ問題があるというならば、当局が責任をもって補修に取り組むべきであり、それを一切放棄して寮生が自力補修を行う必要に迫られる状況を作りながら、根拠もなく「危険も伴いますので、無責任な行為は厳に慎むよう求めます」というのは不条理です。

 私たちは、吉田寮の自治運営を担い続けてきた立場として、吉田寮現棟をきちんと維持管理し将来へと繋げる責任の一端を負っています。それゆえ、これ以上現棟の維持管理を当局がサボタージュする状況を黙って見ているわけにはいきません。福利厚生施設である吉田寮の補修のための経済的負担が寮生らにしわ寄せされるのは甚だ遺憾ですが、寮自治会として独自での補修を行います。念のため付け加えますが、本件補修は現棟の抜本的老朽化対策を行うまでの間、現棟を維持管理するための最低限の修繕・原状回復であって、建物に手を加えるような増改築ではありません。

 もちろん今回屋根の自力補修を行うからと言って、本来大学当局が補修を行うべきとの考えは変わりません。大学当局が現在の方針を見直して、寮自治会との協力のもと、現棟の小中規模の補修に取り組むことを求めます。

5、ブルーシートの再設置について

 220901回答では、唯一、2018年の台風被害で応急処置として設置されたブルーシートについては「機能を果たしていないことが確認されれば再設置することを考慮する」としました。現棟の維持管理のためには応急処置のみでは不十分であり、応急処置しか行わないとする当局の姿勢は問題ですが、京大当局がブルーシートの再設置を行うこと自体には全く異論はありません。しかし大学当局は、これまでブルーシートの再設置を含む全ての吉田寮自治会からの現棟補修要求を無視してきました(少なくとも2020年9月25日に吉田寮自治会は大学厚生課窓口を通じてブルーシートの劣化を報告し再設置を要求しており、「現状の確認についても含めて、そのような話があったことは大学に伝えます」との回答を受けました。しかしその後一切の返答も現場確認も行われませんでした。また2022年7月12日に再度屋根の補修を要求した際も何らの理由もなく拒否されました)。今回の再度の補修要求についても1ヶ月にわたり回答を待たされた上、「再度ブルーシートを設置することを考慮します」など非常に歯切れの悪い回答が、責任者すら明示せずに行われるに止まりました。これらを考慮すると、このまま大学当局にブルーシートの再設置を委ねた場合に、果たして実際に施工がされるのか、されるとしても相当後日へ引き延ばされるのではないか、甚だ不安です。

 したがって、今回寮自治会側で自力補修を予定していた北寮のブルーシート再設置については、やはり寮自治会として実施することとします。ただし、2018年の台風被害で設置されたブルーシートは他にもあるため、それらについては大学当局が早急に再設置することを求めます。

6、安全確保のためには寮生の退去ではなく現棟の老朽化対策を行うべきであること

 220901回答で大学当局は、寮生の現棟での居住を認めておらず、耐震性を欠くため早急に立退くようにと述べています。このことについて今一度反論します。

 まず、大学当局が吉田寮生の退去を決定したとする2017年12月19日の「基本方針」は、吉田寮自治会との何らの合意も話し合いもなく一方的に通知されたものです。これは長年にわたって吉田寮自治会と大学当局が締結してきた「大学当局は吉田寮の運営について一方的な決定を行わず、吉田寮自治会と話し合い、合意の上決定する」という確約に明らかに違反しています。

 次に現棟の安全性について、現在進行中の明け渡し訴訟においても争点の一つとなっていますが、寮自治会としては現棟の老朽化は法的に退去を強要できるほどの「朽廃」には至っていないと考えています。

 とはいえ築100年以上が経過する中、現棟の耐震性・安全性の向上は重要な課題であり、長年にわたり寮自治会と大学当局は現棟の老朽化対策について協議してきました。2012年には現棟の建築的意義が認められ、大規模補修に向けて継続協議するという合意を交わし、以降具体的な補修方法について議論を積み重ねてきました。ところが2015年、京大当局は寮自治会との話し合いを一方的に打ち切り、自らは何らの代案も提示しないまま、寮自治会の具体的な現棟改修案を無視するようになりました。この状態が以後7年近く続いています。さらに2019年には寮自治会から、現棟を一時的に退去することを含めた譲歩案を提示して話し合いの再開を求めました。しかし大学当局はそれすら一蹴して一切の意見のすりあわせを拒否しました。

 こうした経緯を踏まえれば、大学当局が「耐震性」を理由に退去を迫ること自体がおかしいのです。真に安全確保を達成するためには、2015年までの議論の積み重ねを尊重し、現棟の抜本的老朽化対策に向けて寮自治会との話し合いを再開することが、もっとも有効な解決策です。それを行わずに寮生の退去のみを執拗に迫る大学当局は、福利厚生施設である吉田寮を縮小・閉鎖することで困窮する学生のことをあまりに軽視しています。また寮生を退去させることで、現棟や吉田寮の今後のあり方について決定するプロセスから吉田寮自治会や関係当事者を締め出し、これまで吉田寮が積み重ねてきた福利厚生施設・自治空間としての実践(その具体例は2019年9月20日付け「吉田寮の未来のための私たちの提案」で詳述しています)を踏まえず、その価値を蔑ろにする吉田寮の解体再編が強行されるのではないか、という懸念を払拭できないのです。

 なお220901回答では「また、新棟についても躯体にかかる補修以外を行うことはありませんので、新棟に居住する者にも、寮からの速やかな退去を求めます。」としていますが、これは全く文意が不明です。もとより新棟は築10年に満たない新築建造物であり、安全対策とは何ら無関係であることははっきりしています。にもかかわらず寮生の退去を求めるのは不当です。