【吉田寮現棟・食堂明渡請求訴訟】追加提訴訴状送付に伴う声明

声明

2020年8月6日
吉田寮自治会

 去る2020年3月31日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が世界的に問題となっていくさなか、国立大学法人京都大学当局が、現在進行中の吉田寮現棟・食堂明渡請求訴訟について、新たに25名を追加提訴をしたと発表した。吉田寮現棟・食堂明渡請求訴訟は、2019年4月26日に、京都大学の学生である吉田寮生のうち20名を選び出し、京大当局が提訴した民事訴訟である。追加提訴されたのは、現寮生だけではなく、2019年3月以降に京都大学を卒業・退学した元寮生が含まれている。以下、この度の明渡請求訴訟及び追加提訴について、京大当局のおかしな所を指摘していく。

1.現寮生だけではなく、元寮生に対しても提訴をしていること

 今回被告とされ提訴された25名の内訳は、10名の現寮生と15名の元寮生である。元寮生の中には、当局に対して卒業後の進路及び吉田寮からの転居先を報告した者も含まれており、進学先の大学教務へ京大当局から連絡が為されたり、転居先住所に訴状が届けられたケースもある。

 今回の「吉田寮現棟・食堂明渡請求訴訟」とは、吉田寮現棟・食堂という「建物を明け渡す」ことを請求されている民事訴訟である。当然の事ながら、転居した元寮生達は既に建物から退去しており、提訴する必要性は一切無い。実際に吉田寮に居住しているか否かに関わりなく、大学当局が2020年1月に提出を強要した「退去報告書」(今後吉田寮現棟・寮食堂に立ち入らないことの誓約を含む)(※1)を、完全に大学当局の指示通りの書式で提出しなかった者が、提訴されたのである。

 そもそも吉田寮は京都大学の学生寮であり、居住する寮生は全て吉田寮の入寮資格を満たした「京都大学に在籍する学生及びその者と切実な同居の必要性がある者」である。卒業ないし退学により、京都大学の学籍を失った者は、直ちに吉田寮での在寮資格が無くなるため、寮での部屋割りが無くなり、卒業・退学と同時に退寮している。そのことは、吉田寮自治会が毎月京大当局に提出している寮生名簿を参照すると明らかであるはずだが、2018年4月以降、不可解な事情により京大当局が一貫して寮自治会の名簿の受取を拒否し続けている。「誰が吉田寮に住んでいる寮生か分からない」という京大当局の言い分は、寮自治会が用意し提出し続けている寮生名簿の受取拒否に全ては起因している。

 なお、吉田寮の入寮資格である「その者と切実な同居の必要性がある者」について説明する。京大当局(教育推進・学生支援部)が管理する国際交流会館(留学生寮)においても、配偶者や子どもの入寮が認められている。これをさらに現状に即して、異性間の婚姻のみを優遇するなどの差別的側面を取り除き、介助者等も想定し、1990年代から制度化・運用しているのが吉田寮の入寮資格の「その者と切実な同居の必要性がある者」なのである。

2.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下に不要不急の提訴を行っていること

 京大当局が、今回の25名追加提訴を行ったのは、2020年3月31日という、新型コロナウイルス感染症の流行が世界的に問題となっており、日本各地の大学でも新学期以降の授業、課外活動、研究会、大学運営などについてどのようにしていくかという対応を迫られている時期であった。本来、吉田寮現棟・食堂明渡請求訴訟は、京大当局が吉田寮の補修をサボタージュしたり、恣意的に話し合いを打ち切ったり、寮生名簿の受取拒否などをしなければ、一切起こす必要のない裁判であったことは、何度も説明を尽くして来ており(※2)、被告側吉田寮生は一貫して「裁判を取り下げ、現棟補修に向けた建設的な話し合いの再開」を当局に要求し続けている。こともあろうに、新型コロナウイルス感染症という未知のウイルスによる感染症が流行する時に、京都大学における対策や2020年度前期の対面授業の有無などよりも先だって不要不急の裁判の提訴を優先した京大当局の姿勢は、全くもって理解に苦しむ。大学の執行部として、「任期中(現執行部の任期は2020年9月末まで)に吉田寮生に対して加えられるだけの圧力を加えておく」という利害を優先し、大学としての然るべき運営を疎かにした行為であると捉えざるを得ず、厳しく批判されるべきことである。

 実際に、この京大執行部による訴訟強行姿勢は、吉田寮にて寮生が行っている新型コロナウイルス感染症対策に対して京大当局が協力することをも妨げている。

 2020年4月1日に吉田寮自治会は「吉田寮における新型コロナウイルス対策と京都大学への協力要請」を出して、新型コロナウイルスという未知のウイルスによる感染症の拡大防止のために「衛生物品の支給」「寮生名簿の受領再開」「感染症対策のための寮自治会との迅速な協議開始」を京大当局へ要請した。仲立ちをした厚生課窓口では「訴訟が進行中であり、また大学としては吉田寮自治会という主体を認めていないので、寮自治会の要求に大学として応えることはできない。大学が寮自治会の要求に応えるということを、裁判などにおいて悪用されることを理事会は懸念している」という旨の回答が為された。新型コロナウイルス感染症対策という生命の安全に関わる問題に至るまで、「吉田寮生を提訴している」という建前を優先し対応されなかったという例である。

3.「寮生の安全確保」が蔑ろにされ続けていること

 京大当局が新型コロナウイルス感染症対策よりも訴訟強行を優先したことにより、生命の安全確保の問題を軽視している姿勢が表れていることは前項に述べた。以下では、そもそも吉田寮からの寮生追い出しを当局が正当化していた理屈である「寮生の安全確保」について、それを蔑ろにし続けているのは当局であるということについて改めて指摘しておく。

●建物の補修をサボタージュし続けてきたのは大学当局である

 現在争点となっている吉田寮現棟の老朽化対策については、2012年に補修の方向性で継続協議することが合意され、以後2015年まで具体的な補修方法についての議論が行われてきた。また寮自治会は建物の部分的・段階的な改修工事により、現在の寮生数を減らさずとも安全性の向上が可能であることを示してきた。しかし、2015年に現任の川添学生担当理事が就任して以降、5年以上にわたって吉田寮自治会の補修案に対する回答は「検討中」のみであり、具体的なレスポンスや代替案の提示が行われない状況が続いている。2019年2月に川添理事が発表した「吉田寮の今後のあり方について」でも「安全確保に加え収容定員の増加や設備の充実等を図りうる措置を講じた上で学生寄宿舎として供用する」とされたのみで、具体的な現棟老朽化対策のビジョンは今なお示されていない。更に寮自治会は同年2月、現棟の継続的な清掃・点検や耐震補修が完了している食堂の使用継続が認められるならば現棟での居住を取りやめる用意があることを表明した。しかし大学当局はこれをも拒否し、何らの歩み寄りも示さないまま、寮生の提訴に踏み切ったのである。
 吉田寮自治会は、現棟の老朽化は法的に寮生の立ち退きをすら強制できる程とは考えていない。しかしながら、無論、耐震性の向上は可能な限り速やかに行うべきと考え、早急な老朽化対策とそれに向けた話し合いの再開を求めてきた。大学当局が真に寮生の安全確保を考えるならば、寮生の追い出しに費やされる費用や時間を用いて建物の改修を行うことが最も有効である。それを避けている現執行部は、寮自治のあり方について意見の異なる他者(寮生など)を除外するために、寮生の追い出しに固執して、寮生の安全確保を二の次にしていると考えざるを得ない。

●吉田寮の閉鎖・機能停止は学生のセーフティネットの剥奪である

 また、吉田寮は京都大学の福利厚生施設であり、様々な経済的事情を抱える学生ができる限り衣食住の心配無く学業・研究に集中できるように、安価な寄宿料・生活費が保障された学生寮である。このような役割を果たしている福利厚生施設に対して、入寮募集停止要請を一向に取り下げず門戸を閉ざすよう強要し、また裁判という圧力を使って住居から出て行くよう促す京大当局の姿勢は、「貧乏人は京都大学で学ぶな」と言うにほとんど等しい。

 しかも、現在は新型コロナウイルス感染症が流行しており、感染拡大防止のために外出を控えたり事業規模を縮小し、これまでと同じようには経済活動ができなくなった人がありふれている。所得が減り、住環境の確保や学業継続に影響が出ている学生は、京都大学においても大勢いる。本来、京大当局がすべきことは「安価な寄宿料・生活費が保障された学生寮」である吉田寮のセーフティネットとしての価値を再考することであるはずだ。ここにきて新型コロナウイルス感染症の脅威だけでなく、更に学生達に対して住居から出て行くように圧力をかけたり、入寮を阻害するような行為は、学生の生命と学業・研究活動を蔑ろにする行為であり、言語道断である。

●立ち退きを迫る圧力行為は寮生個々人の心身を脅かしている

 さらに特筆すべきは、京大当局が行っている吉田寮生に対する追い出しの圧力は、そのまま学生の心身の健康を脅かすハラスメント行為だということである。2017年12月以降京大当局は一方的に吉田寮生に対して「寮から出て行くこと」を強要し続けており、当局の意向に反して吉田寮に居住し続けることは「不法占有である」と規定し脅し続けている。このような通知は学生本人だけでなく、学生の保護者や指導教員に対しても為されており、周囲の人間をも使って寮生達が当局の意向を忖度するよう強い続けている。吉田寮現棟・食堂明渡請求訴訟とは、京大当局が一方的に呼ぶ「不法占有」という言葉に、更に司法によるお墨付きを得るために、自分の大学の学生や卒業生と対話をすることよりも提訴することを優先したという京大執行部の尊大さの結晶である。圧倒的に権威と権力を持つ京大当局によって、退去を強要され続けたり被告とされるというハラスメント行為もまた、寮生の安全性を毀損する行為である。

 以上、京大当局によるこの度の吉田寮生・元寮生への追加提訴が如何に理に反しており、寮生の生命の安全確保を蔑ろにしているかについて、述べた。現執行部ならびに次期執行部におかれては、早急に不要不急の提訴を取り下げ、寮生の安全確保に対して真剣に取り組むよう、再考していただくよう要請する。

※1 詳細は、2020年2月20日に発表した「京大当局による吉田寮生・元寮生への脅迫に対する抗議声明」を参照。

※2 一例として2019年5月5日に発表した「吉田寮現棟の明け渡し訴訟に対する声明文」を参照