2020年10月1日:2020年10月からの京都大学役員一同への要求書

京都大学総長 湊 長博殿
男女共同参画、国際、広報、渉外(基金・同窓会)担当理事 兼 副学長 稲垣 恭子殿
研究倫理、研究公正、研究規範担当理事 兼 副学長 北村 隆行殿
国際渉外、海外同窓会担当理事 久能 祐子殿
研究、評価、産官学連携担当理事 兼 副学長 時任 宣博殿
総務、労務、人事、危機管理、施設担当理事 平井 明成殿
教育、情報、図書館担当理事 兼 副学長 平島 崇男殿
財務、入試担当理事 兼 副学長 村上 章殿
戦略調整、企画、学生、環境安全保健 担当理事 兼 プロボスト 兼 副学長 村中孝史殿

2020年10月からの京都大学役員一同への要求書

 吉田寮自治会は、本日2020年10月1日より京都大学の役員となる皆さまへ以下の通り要求します。2020年10月31日までに回答してください。なお、やむを得ない事情により期限までに回答できない場合は、その理由と共にいつまでに回答できるかを吉田寮自治会までお知らせください。

1、老朽化対策を含む今後の吉田寮のあり方について、団体交渉を含む、寮自治会など当事者との話し合いを再開すること

2、吉田寮自治会と歴代役職者が締結してきた確約を引き継ぐこと

3、寮生・元寮生を被告とした建物明渡請求訴訟を取り下げること

以下、それぞれについて詳細を述べます。

1、老朽化対策を含む今後の吉田寮のあり方について、団体交渉を含む、寮自治会など当事者との話し合いを再開すること

 これまで吉田寮自治会は、寮生など当事者間の「話し合いの原則」を軸としながら、差別や抑圧を可能な限り減らし学生の学ぶ権利を確保することを目指して、京都大学の学生寮として責任ある自治を担ってきました。性のあり方や国籍による入寮資格の制限を撤廃し、福利厚生の門戸を吉田寮自治会が主体的に広げてきたことは、その一例です。

 他方、大学執行部が一方的に寮のあり方を決め、その決定を居住者である寮生に押し付けることは、学生の生活実態にそぐわない運営を招く危険なものにしてしまいます。実際、京大学内の他寮において近年寮費の大幅な値上げが行われたり、当局が管理する留学生寮では在寮年限等が厳しく制限されている現状があります。

 川添信介・前学生担当理事は「全学生への公平な福利厚生の提供」を主張しましたが、それは役員会が一方的に定める画一的な基準によって安易に達成されるようなものではなく、多様な属性をもつ居住する学生自らが話し合いに主体的に参加することが重要であると考えます。吉田寮に関する問題については、寮自治会など当事者の意思が尊重され、当事者との対話と合意形成の上で決定される必要があります。

 2015年までの数十年間、寮自治会と大学当局は、公開の場での話し合い(団体交渉)を通じて合意形成をはかり、その内容を確約書として取り交わしてきました。話し合いを公開の場で行うのは、双方の間に大きな権力差があることを認識し、また吉田寮に関係・関心をもつ多様な当事者を話し合いの場から排除しないためです。実際にこの合意形成プロセスを通じて、吉田寮食堂の補修・新棟の建設(2012年に確約締結、15年に完了)など、吉田寮に関する問題は大きな進展をみてきました。

 しかし2015年に就任した川添信介・前学生担当理事は団体交渉を「『話し合い』とはかけ離れた異常なもの」だと断定して出席を拒んだ上、過去に締結された確約書は「半ば強制されたもの」で「機関決定を経ていない」ため無効である、と一方的に主張してきました(注1)。しかし、具体的にどの団体交渉について、どのような事実に基づき「異常」だというのか、確約のどの部分がどのような根拠で「半ば強制された」ものなのか、明らかにしていません。これは、これまで長きに渡り、丁寧に当事者と話し合いを積み重ね確約を締結してきた、当局の歴代責任者の主体性を全否定することでもあります。なお確約書の有効性は大学当局側の文書にも証左があります。例えば2015年には、吉田寮自治会からの公開質問状に対して杉万俊夫・元学生担当理事名義で公式に回答がありましたが、その中身は、明らかに寮自治会との確約が有効であることを前提としています(注2)。

 川添信介・前理事は、団体交渉を否定した上、寮自治会が当局側の条件(時間制限・人数制限・一切の傍聴を認めないなど)を受け入れることで実現した非公開の場での話し合いにおいてすら、「意見は聞くが合意形成はしない」と言い放ち、たった2回で話し合いを打ち切りました。総じて前執行部は、当事者との対話をあまりに軽視する姿勢であったと言わざるを得ません。

 吉田寮自治会は、団体交渉を含む方法によって、当事者との話し合いを再開し、現棟の老朽化対策など、吉田寮の今後のあり方について協議を再開することを要求します。なお新型コロナウイルス感染症が流行している現状においては、オンラインツールを利用するなど感染症対策に留意した新たな話し合いの形式についても双方の協力の下模索したいと考えています。オンラインを駆使してより多くの人が参加できるように開かれた形で行うなど、従来のあり方に囚われない形での発展的な形式での話し合いを是非とも共に模索してみませんか。

(注1) 2018年8月28日 川添信介理事『「吉田寮生の安全確保についての基本方針」の実施状況について』

(注2) 2015年8月17日 杉万俊夫理事『吉田寮自治会からの公開質問状に対する回答』https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/about/events_news/office/kyoiku-suishin-gakusei-shien/kosei/news/2015/150817_1.html

2、吉田寮自治会と歴代役職者が締結してきた確約書を引き継ぐこと

 確約には、「大学当局は吉田寮の運営について一方的な決定を行わず、吉田寮自治会と話し合い、合意の上決定する」(項目1)とあります。これは、大きな権力差のある二者間での話し合いが対等なものであることを保障するための努力の一つの表れです。当局の歴代責任者は、大学当局と吉田寮自治会との間に権力差があることを真摯に受け止めていたからこそ、こういった項目が含まれる確約を遵守し、できる限りその権力差を是正するように尽力して来たのです。吉田寮の今後のあり方を決めていく上で、本確約が引き継がれることは絶対不可欠です。

 確約には、「吉田寮自治会と確認した本確約の全項目について、次期の副学長に責任をもって引き継ぐ」(項目17)と明記されています。大学の責任ある交渉主体である理事・副学長が約束したことが、責任者が交替した途端に一方的に無視されることがあってはなりません。本項目に基づき、これまで数十年に渡り、大学当局側の責任者が交替する度に確約は引き継がれてきました。直近の確約は、2015年2月12日に杉万俊夫・元学生担当理事との間で締結されたものです。ところが2015年11月に就任した川添信介・前理事は、確約の引き継ぎを拒み、上述のように確約の有効性自体を否定するようになりました。これは過去長きにわたる当局と寮自治会双方の努力を無に帰そうとする暴挙です。

 吉田寮自治会は新執行部に対し、まず2015年の確約の引き継ぎを行うことを求めます。繰り返しますが、確約書は責任と権限をもつ大学理事との合意事項を記したものであり、一方的に内容を変更したり、破棄することは認められません。内容を変更するならば、団体交渉において議論する必要があります。前任の川添信介・元学生担当理事が確約の引き継ぎを拒否したため、5年間の歳月を経て文言の調整・変更が必要である項目が項目9にあります。それらについての議論も、前項2で要求した通り、吉田寮自治会など当事者との団体交渉をもって行いましょう。

 なお、確約やその他の合意事項、継続協議中の内容、それらの議論の経過を正確に引き継ぐためには、これらの経緯について把握している前任者の出席もあればより望ましいと考えます。

3、寮生・元寮生を被告とした建物明渡請求訴訟を取り下げること

 2019年4月26日、京大当局は吉田寮生20名を被告として、吉田寮現棟・寮食堂の明け渡しを求める訴訟を提起しました。さらに2020年3月31日には、25名の寮生・元寮生を被告として追加提訴しました。

 「吉田寮現棟の明け渡し訴訟に対する声明文」(2019年5月5日)においても抗議した通り、本訴訟は大学当局と学生との権力差を利用した恫喝的訴訟です。それだけではなく、大学当局は、吉田寮自治会からの幾度もの話し合いの要求、寮自治会が提示する現棟改修案を一切無視し続けてきました。とりわけ2019年2月20日に寮自治会は、現棟における居住の取りやめをも含む妥協案を提示し、話し合いの再開を求めましたが、大学当局は「大学の決定に従っていないから」という理由をもってこれを一蹴しました。

 この訴訟は、前大学当局執行部が繰り返し発言してきたような、「やむを得なかった」ものでは決してなく、多少でも当局側の歩み寄りがあれば、十分回避できたものです。それを敢えて提訴に踏み切ったことは、京都大学当局は、当事者との対話を軽視し、圧力によって異なる意見を封じこめようとする考えがあってのことと評価せざるを得ません。

 本件訴訟については、学内の教職員、学生団体、吉田寮食堂・厨房使用者、元寮生、元教員、元京都大学総長、地域住民など広く学内外から、京都大学当局に対して、取り下げを求める声が上がっています。今年7月に行われた京大総長選の最終候補者のうち一人も、本訴訟について「不幸なことに、京都大学における近年の『変化』を象徴する出来事」であり、「大学が学生を提訴しているという状態を一刻も早く解消し、あらためて当事者との対話を再開する必要があ」ると述べています(注3)。こうした明確な反対意見の表明が学内にすらある状況で、少数の役員会のみの判断で訴訟を継続することは、学内民主主義を骨抜きにし、京都大学に対する社会的信頼を失墜させるものです。

 吉田寮自治会は、新執行部がこれまでの方針を見直し、一刻も早く「大学が学生を訴えている」という異常な事態を撤回し、寮自治会との建設的な話し合いを再開することを要求します。

(注3) 「自由の学風にふさわしい京大総長を求める会」ウェブサイト https://president-election.hatenablog.com/entry/2020/07/11/131441

以上

2020年10月1日
吉田寮自治会

【参考資料】2015年2月12日に杉万俊夫学生担当理事(当時)と締結した確約書